1119号 労働判例 「無洲事件」
              (東京地裁 平成28年5月30日 判決)
調理師のシフト勤務の際の労働時間の計算について、それぞれが1暦日における1勤務とされた事例
シフト勤務と労働時間の計算

 解 説
 〈事実の概要〉
 本件は、元調理師であったX(原告)が食堂の委託業務を行うY社(被告)との間で、期間の定めのない労働契約を締結して勤務していたが、原価率計算の際の商品価格等に不実記載がある等として懲戒解雇され、その際、懲戒解雇は違法であり、かつ在職中に強いられた長時間労働は安全配慮義務に違反するものであり、かつ、Y社は労基法所定に割増賃金を支払っていなかったと主張して、Y社に対して、@未払い割増賃金の支払い、A付加金、B安全配慮義務の違反に係る損害賠償、C違法な懲戒解雇を不法行為に当たるとして損害賠償等を求めていた事案である。
 本労働契約の締結後、Xは、Y社が業務委託を受けていたC社のD寮で就労を開始したが、平成25年9月以降は、調理師としての業務以外に、D寮の店長として食材の買い出し、シフト作成業務等も行った。Y社の所定労働時間は、次の通りである。(ア)前期(平成25年8月まで)Bシフト、勤務時間:午前10時ー翌日午前0時、休憩時間:@午後1時ー午後4時、A午後9時ー午後10時、実労働時間10時間、Aシフト、勤務時間:午前4時ー午後4時、休憩時間:@午前9時ー午前10時、A午後1時ー午後2時、実労働時間10時間、(イ)後期(平成25年9月以降)Aシフト、勤務時間:午前12時ー翌日午前0時、休憩時間:@午後1時ー午後2時、A午後9時ー午後10時、Bシフト、勤務時間:午前4時ー午後4時、休憩時間:@午前9時ー午前10時、A午後1時ー午後2時、実労働時間10時間。なお、入社条件確認表には、基本給:18万円、手当:17万円(残業相当分)、残業手当:(1時間)1000円、とされていた。36協定は締結されていない。
 問題になったのは、1日目のシフトに係る勤務の終了後、約3時間半の中断を経た後に開始される2日目のシフトに係る勤務が1日目のシフトと連続した1暦日の勤務と認めることができるかどうかである。なお、懲戒解雇が、その根拠となる就業規則の周知がなかったことから無効となるとしても(フジ興産事件、最2小判平成15・10・10労判861号5頁参照)、被解雇者の側に重大な非違行為があったことから、当該懲戒解雇には不法行為を構成するような違法性があるとはいえないとされている。
 〈判決の要旨〉
 裁判所は、前期のBシフト、後期のAシフトの各始業時間についてのXの主張を退けたうえで、前期のBシフトの始業時間は午前10時、後期のAシフトの始業時間は午前12時であったと認定している。そして、Xの主張(前期のBシフト、Aシフトおよび後期のAシフトおよびBシフトは、常にセットで指定され、宿泊勤務が前提となっており、第1日目のシフトの終業時刻と第2日目のシフトの始業時刻との間には、深夜の時間帯の数時間しかなく帰宅することもできず、施設内の休憩時間にすぎないというべきであるとの主張)を検討し、労基法32条2項の「1日」とは、暦日を指すものとし、通達で、連続した1勤務が2暦日にまたがる場合には、当該勤務は始業時刻の属する日の労働として当該1日の労働とするものと解される(昭和63・1・1基発1号参照)が、これは例外的措置であって、シフトとシフトの間の時間が労働から解放された時間であったことに自体には当事者に争いはないとし、当該時間が深夜の時間帯であり、事実上、自宅への公共交通機関がないというだけでは、被告の拘束のもとにある時間(拘束時間)であったと認めることはできないとしてる。結局、両シフトをあわせて2暦日にまたがる1勤務とは認めることはできず、各シフトはそれぞれ1暦日における1勤務として時間外労働等の計算をするのが相当であると結論づけた。
 現在の労基法の下ではX主張のような法解釈を採ることは難しいとしても、「勤務間インターバル」制度の採用の必要性を感じさせる裁判例である。「勤務間インターバル」制度とは、ある勤務の終了から次の勤務の開始までの間に実質的な休憩がとれる時間を挟み込む制度をいうが、現行の労基法の問題点を自覚させるという意味では、注目される事例である。

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