1116号 労働判例 「トッパンメディアプリンテック東京事件」
              (東京地裁立川支部 平成28年11月15日 判決)
休職期間満了に伴う解雇が有効とされた事例

休職期間満了に伴う解雇の有効性
  解 説

 〈事実の概要〉
 本件は、被告Yの従業員であったX(原告)が、上司のパワハラやいじめ等により精神疾患等を発症して就労が不可能となったのに休職期間満了後に復職させず解雇したことを違法・無効として、Yに対して、@雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認、A平成26年4月分から平成27年8月分までの月額23万円余の未払い賃金の支払い、Bパワハラやいじめ等の不法行為に基づく損害賠償等を求めたものである。
 Yは、多色オフセット刷新聞の製版印刷等を目的とする会社であり、日刊新聞の印刷を主な業務としていた。Xは平成20年11月1日、印刷オペレターとしてY(当時の商号は日野オフセット印刷)に期間の定めない社員として採用され、製造部印刷課に所属し、東京都日野市にある日野工場で勤務していた。日野工場では朝日新聞の長野・山梨・東京多摩地区の印刷を行っていた。Xは、約10年間印刷会社に勤務していたが、新聞印刷の経験はなかった。平成21年3月からは印刷の作業班の一員として輪転機の運転等の業務に就くようになった。
 パワハラやいじめが問題となる事例では、事実の存否に関して原告・被告の主張が真っ向から対立したり、当事者の主張が微妙に食い違うことが少なくないが、本件でもそれが見られる。
 裁判所の認定によれば、Xは、入社時の研修中に指導に当たったC課長に対して反抗的な態度をとることがあったが、正式に職場に配置された後も、上司の作業指示に従わない、作業中休憩を取りたがる、休憩がとりづらい印刷中にトイレに10分以上もこもって戻ってこない、注意をすると暴言を吐き、相手を脅すといった言動を繰り返したため、職場の中で信頼されない、近寄りがたい存在になっていった、とされている。
 Yでは、工場に入る際には支給された作業用帽子を着用することを義務づけていたが(作業の安全のため)、Xは、次第に帽子を着用しないで作業場に入るようになった。Xの上司はその都度Xに帽子の着用を指示したが、指示の後は着用するもののすぐにまた着用しなくなるという状態が繰り返された。Xは、平成22年10月25日、頭部脂漏性皮膚炎のため、就業中の帽子の着用は避けるべきである旨の記載のある医師の診断書を提出したが、H部長が医師の具体的な意見を聞いてXの申し出への対応を検討するためにXに対してYの担当者と主治医の面談を行うための同意書の提出を求めたが、Xは、同意書の提出をしなかった。
 Xは、平成23年ごろから欠勤、病欠が多くなった。Xの欠勤等の状況は、平成23年4月1日ー平成24年3月31日(欠勤23日、病欠5日、遅刻1日、早退8日)、平成24年4月1日ー平成25年3月31日(欠勤34日、病欠20日、遅刻3日、早退19日)、平成25年4月1日ー平成25年8月31日(欠勤4日、病欠58日、遅刻2日)、である。
 〈判決の要旨〉
 裁判所は、Xの、Yによるパワハラや上司・同僚によるいじめ、嫌がらせを受けて精神疾患にかかる状態になったとの主張について、上司・同僚による注意は業務上必要かつ相当なものであった、業務指示書の提出指示にも必要性があり、また懲戒処分には実体上も手続上も瑕疵はなく、違法性はないとしている。
 解雇権の濫用のXの主張についても、本件解雇に至る経緯に加えて、Xに欠勤、遅刻等が多く、上司や同僚に対して反抗的かつ粗暴な態度や協調性に欠ける言動を繰り返し、2度にわたってけん責の懲戒処分を受けても勤務態度が改まらなかったこと、上司、同僚の中には体調不良を訴える者もいた等の事情を考慮すると、本件解雇には客観的に合理的な理由があり、社会的にも相当であるとしている。
 本件では、主治医からの診断書について内容・病状の程度等を会社が確認するため担当者が求めた、労働者の「同意」がことごとく拒否されているが、これがXに不利に働いたことが伺われる。労働者の「同意」がない以上、主治医からの診断書を産業医等がチェックすることはできなくなるが、いろいろ考えさせられる事例である。

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