1113号 「三菱重工業事件」
       (東京地裁 平成28年1月26日 判決)
復職に当たって現住所から通勤できる職場を求め元の職場での復職を拒否して解雇され、
解雇が有効とされた事例

復職に当たっての使用者の配慮義務の範囲
  解 説
 〈事実の概要〉
 本件は、愛知県内の事業所で 雇用されていたX(原告)が、私傷病による長期欠勤の後、Y社(被告)から原職場での復職を命じられたのに対し、復職には同居の家族の支援が不可欠であるという理由である埼玉県の現住所から通勤可能な場所での復職を求め 出社を拒否したとして解雇されたため、労働契約上の地位確認とYから短時間勤務の開始を可能とすると言われた日からの給与等を求めた事例である。
 事実経過について述べると、Xは、平成16年4月に入社し、名古屋製作所小牧南工場に勤務していた。当時Yは、事業所・事業本部制が採られ、名古屋製作所も必要な技能職を独自に採用していたが、Xは、職種を技能職に限定して採用された。平成22年9月、Xのミスにより部品が届かないというトラブルが発生。上司(C課長)が注意したところ、その御失神したため、病院に救急搬送された。Yは、高所作業、残業、業務上の自動車運転を禁止するという安全配慮上の就業制限を行う。平成22年10月、産業医の面談が行われたが、コミニュケーション上の問題は解決しなかった。平成23年1月11日、Xの欠勤が開始され、私傷病欠勤扱いになり、X側から、「自律神経失調症」「適応障害」「適応障害(アスペルガー障害疑い)」の診断書が提出された。平成23年2月、Xは、愛知県内の自宅に妻と同居していたが、その後、実家のあった埼玉県のK市に転居した(妻とは同年5月頃離婚)。以後実母がXの世話をしたが、平成24年2月、実母が成年後見人に選任された。平成25年2月、Xは、埼玉県越谷市に転居したが、平成25年6月、主治医から就労上問題がない程度まで回復しているとの見解が示され、復職が申請された。平成25年8月、上司からXが、技能職であるから、復職する場合は原職場である小牧南工場での短時間勤務が検討されている旨の説明があり、同年10月には、名古屋製作所から原職場における短時間勤務を11月1日から開始するように復職命令が出された。しかし、Xは復職命令に応じず、11月1日、Xは出勤しなかった。その後、Yは、短時間勤務の復職命令を拒否し続けることは重大な業務命令違反であり、かつその出勤が病気欠勤開始から33ヵ月を超えていることから、社員としての適格性を著しく欠如していらうとして、平成25年12月20日をもって解雇する旨、Xに通知した。
 本件の争点は、解雇の客観的合理性および社会通念上の相当性の有無であるが、私傷病で長期欠勤(休職)していた者の復職に当たり、現住所から通勤可能な職場への異動を求めた申し出が、債務の本旨に従った労務提供の申し出といえるか、Yにはこれに配慮した職場を検討する法的義務があったか否かである。
 〈判決の要旨〉
 裁判所は、次のように判示してXの請求を棄却している。Xは、特殊な専門分野の事業に技能職として採用されており、他の事業所に配転することは想定されていないとして、Xが、現住所から通勤可能な勤務地での復職を申し出ても、債務の本旨に従った労務の提供を申し出ているとはいえない。この申し出に対して、Yが就労の実現可能性のある業務を調査・検討する義務があるともいえない。Yが、Xに、原職場での復職を命じた復職めいれいは相当であり、Xがその命令に従わなかったのは、重大な業務命令違反に当たり、解雇は有効である。なお、生活全般の支援は家族内部で検討・解決すべき課題であるとも述べられている(本件の場合、家庭内での事情を優先した形で企業側に配慮を求めていた)。
 復職に当たっての使用者の配慮義務の範囲・程度に関する興味深い事例である。

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