1111号 「フジビグループ分会組合員(富士美術印刷)事件」
       (東京高裁 平成28年7月4日 判決)
労働組合によるグループ会社への抗議行動等に対する損害賠償請求

労働組合によるグループ会社への抗議行動等の違法性
  解 説
 〈事実の概要〉
 本件は、タイトルにあるように、労働組合によるグループ会社への抗議行動等によって損害を被ったX社(原告)がその損害の賠償を請求した事例である。
 X社は、一般印刷、特殊印刷、紙器の加工請負等を目的とする会社であるが、A社は、昭和43年にX社の活版印刷部門を分離する形で設立され、X社の本社工場と同じ社屋で業務を行うなど、X社と関連を持ってきたが、平成24年9月14日、東京地方裁判所で破産手続開始の決定を受けた。Y1ら3名(被告)はいずれもA社の従業員であったが、A社が破産手続開始の決定を受けたことに伴い解雇された。これに対して、Y1らは、「X社は、A社の社員を雇用する義務がある」「A社は偽装倒産である」「X社及び乙山グループ(X社の取締役でありA社の取締役でもあった)の組合つぶし偽装倒産を許すな」等と記載したビラをX社の本社敷地内、その周辺、近隣の取引先等に交付・送付し、同内容の記載された幟をX社の本社周辺に掲示し、拡声器で宣伝し、横断幕をX社の本社屋上のフェンスや壁に掲示するなどした。こうした行為によって、X社は、名誉・信用を毀損され、またその営業妨害によって取引先から取引を打ち切られるなど財産的損害をこうむったと主張して、Y1らに対して、共同不法行為(民法709条、719条)2200万円の損害賠償を請求した事例である。
 原審(第1審・東京地裁)は、Y1らの行為のうち一部が信用毀損に係る共同不法行為を構成するとして、350万円の限度でX社の請求を認容した。これに対してY1らが控訴したのが本件である。
 〈判決の要旨〉
 裁判所は、Y1らのビラ、幟、横断幕に述べられた内容を検討し、これらの表現が、X社の社会的評価を低下させるものであると認めた上で、次のように判示する。Y1らは、A社に雇用され、いずれも全労協全国一般東京労働組合に加入し、その下部組織であるA社グループ分会に所属していたものであるが、A社が破産手続開始の決定を受けたことで解雇され、自分たちをA社に代わり、X社において雇用するように求めて上記のような一連の行動に出たものであると認定し、憲法28条の権利について次のような一般論を展開する。憲法28条は、勤労者の団結する権利および団体交渉その他の団体行動をする権利を保障しているが、その本旨は、労使間の団体交渉によって、労働組合を組織する労働者と使用者との間の労働契約関係の内容をなす労働条件が対等に決定されるように保障することにあるが、・・・・・労働組合が労働条件の改善を目的として行う団体行動であるかぎり は、それが、直接労使関係に立つ者の間の団体交渉に関係する行為でなくても、同条の保障の対象に含まれると解するのが相当である。したがって、上記労働条件の改善を目的として労働組合が直接には労使関係に立たない者に対して行う要請等の団体行動も、同条(憲法28条)の保障の対象になる、と。しかし、他方、このような団体行動については、団体行動を受ける者の有する権利、利益を侵害することは許されないのであり、おのずから限界があるとも述べる。
 一般的には憲法28条の団体行動の保障の対象になる範囲は広いが、それが団体行動を受ける者(相手方)の有する権利、利益を侵害することは許されないのである。その意味で、本判決は、労働組合が行う団体行動の制約を明確にした判例ともいえる。

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