1110号 労働判例 「学校法人尚美学園(大学専任教員B・再雇用拒否)事件」
              (東京高裁 平成28年11月30日 判決)
大学専任教員の65歳定年後の再雇用拒否の有効性が争われた事件
65歳定年後の再雇用拒否の有効性
  解 説

 〈事実の概要〉
 本件は、大学専任教員であった者の65歳定年後の再雇用拒否の有効性が争われた事件である。多くの大学では、就業規則で65歳定年を定めながら、その後(70歳ぐらいまで)特認教員として再雇用する例が少なくない。しかし、学生数が減少する中で、こうした制度の見直しを行う大学も見られる。
 本件は、Y大学で専任教員であった者(X・原告)が満65歳に達した日の属する学年度の末日に、定年により退職扱いとされたことから、主位的に、@定年を満70歳とする合意(本件では定年合意)、A定年を満70歳とする労使慣行(本件労使慣行)の存在、予備的に、B教員として定年後、70歳まで特別専任教員として再雇用する旨の合意(本件再雇用合意)の存在、C仮に@ーBまでの合意や慣行が成立しなかったとしても、65歳定年になった後、70歳まで特別専任教員として、1年ごとの嘱託契約(「本件再雇用契約」)を締結すると期待することについて、合理的理由があり、雇止め法理が類推適用されると主張して、Y学園に対して、特別専任教員としての地位確認を求めるとともに、労働契約に基づく賃金および賞与等の支払いを求めたものである。なお、Y学園では、専任教員の定年は65歳に達した日の属する学年度の末日とするとともに、大学の理事会が認めた場合、定年に達した専任教員は、満70歳を限度として勤務を委嘱することができる(1年契約の特別専任教員)とされ、定年に達する専任教員が引き続き勤務を希望する場合は、学部長および学長を通じて理事長宛てにその旨を書面により申請しなければならないことになっていた。その申請があった場合には、学部長は審査の上、学長に上申書を提出し、理事会の議を経て理事長が決定することになっていた。特別専任教員の待遇は、定年時の基準給与月額の70%とされていた。
 しかし、Xについては、全会一致で特別専任教員の委嘱しないことが承認され、Y学園は平成26年8月1日付けで、Xに対して、理事会の決定により特別専任教員として採用しない旨を通知し、27年3月31日に、定年により労働契約が終了したとした。
 本件の争点は、@本件定年合意の成否、A本件労使慣行の成否、B本件再雇用合意の成否、C本件再雇用契約を締結しなかったことの権利濫用該当性の有無(本件再雇用契約を締結した場合と同様の地位確認が認められるか否か)、である。
 @ーBについては、判旨が否定していることもあり、ここでは紙数の関係でCについてのみ取り扱う。
 〈判決の要旨〉
 Cについて、裁判所は、次のように述べている。定年後の再雇用について、理事会の裁量はまったくの自由裁量であるとは解されず、その権利を逸脱濫用するような運用は、権利濫用として許されるものではない、としたうえで、労働者において、定年後も再雇用契約を新たに締結することで雇用が継続されるものと期待することについて合理的な理由があると認められる場合、使用者において、再雇用基準を満たしていないものとして再雇用することなく定年により労働者の雇用が終了したものとすることは、他にこれをやむを得ないものとみるべき特段の事情がない限り、客観的に合理的な理由を欠き、社会通年上相当であると認められず、この場合、使用者と労働者との間に、定年後も就業規則等に定めのある再雇用規程に基づき再雇用されたのと同様な雇用関係が存続しているものとみるのが相当であると。
 津田電気計測器事件の最判(平成24・11・29)の判断に従った判断であるが、こうした再雇用の取扱いを変えるのは、再雇用基準をよほどしっかりしたものにする等、手続を整備する必要があろう。

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