1106号 労働判例 「NHK堺営業所センタ−(地域スタッフ)事件」
              (大阪地裁 平成27年11月30日 判決)
受信契約の締結、放送受信料の集金等を内容とする委託契約を締結していた者の
業務不良を理由とする中途解約について労働契約法17条が類推適用されるとされた事例

受信契約の締結等を内容とする委託契約の中途解約と労働契約法17条
  解 説

 〈事実の概要〉
 本件は、受信契約の締結、放送受信料の集金等を内容とする委託契約(本件契約)を締結していた者X(原告)が、NHK(Y、被告)から業務不良を理由として中途解約されたことについて、労働契約法17条違反等を理由に労働契約上の地位の確認、それを前提とする契約上の金銭給付等を請求したものである。
 Yは、放送法に基づいて設立された法人であり、受信契約者が拠出する受信料を財源として運営される法人であり、Xは、Yから上記業務を委託された個人(以下、「地域スタッフ」という)である。Xは、平成11年4月1日以降、3年毎に本件契約の更新を行ってきたが、平成21年12月以降は、地域スタッフのうち地域開発スタッフとして業務を行ってきた。
 契約内容は、委託業務(1条)、受持区域(2条)、第三者への再委託可能(4条)、委託業務の遂行方法(5条)、目標達成のための業績の確保とその見通しが立たない場合のYとの協議(6条)、1か月前以上の予告による契約の解除(15条)等からなっていた。
 Xは、平成21年度第2期(平成21年6月・7月)の業績が最低業績水準(目標値の60%)に達しなかったため、同年度の第3期から特別指導の対象となったが、平成23年度第4期(同年10月・11月)の業績不良により、次期以降、業績量を2分の1に減少する措置を受けている。Yは、平成23年4月1日にXと本件契約を更新するに当たってXに目標達成を求める委託業務改善書を交付した。Xは、同年4月4日、Bクリニックで抑うつ状態の診断を受けその日から同年8月3日まで休業した。なお、Xは、平成24年7月24日、約1年ぶりにBクリニックを受診したが、診断書の発行を受けられなかったため、同月25日、Cクリニックを受診し、うつ病の診断を受け、同日以降、うつ病により就労不能であることを理由に休業した。
 Yは、平成24年8月1日、同年9月1日付けで本件契約を解約する旨の解約予告を行ったが、解約理由は再三の指導・警告にもかかわらず業績が著しく不良であり、受信契約の締結、放送受信料契約、その収納業務を行う受託者として契約を継続することが不適当と認められるというものであった。
 〈判決の要旨〉
 裁判所は、労働契約法上の労働者性は、労働基準法上の労働者性と同様に、基本的に@労働が、使用者の指揮監督の下で行われているか、A報酬が提供された労務に対するものといえるか否か(労務対償性)、で判断するとした上で(この@Aを使用従属性という)、この使用従属性は、雇用契約、委任契約、請負契約といった契約の形式にとらわれずに、労務提供の形態や報酬の労務対償性およびこれらに関連する諸要素を総合考慮し、実質的に判断する必要がある、とする。そいて検討した結果、地域スタッフは、Yから業務の内容、遂行方法について具体的な指揮命令を受けていない等から労働基準法および労働契約法上の労働者とはいえないとする。
 しかし、労働契約法は純然たる民事法であるから、刑事法である労働基準法とは異なり、これを類推適用することはた可能であるとして、期間の定めのある本件契約の中途解約については、労働契約法17条1項を類推適用するのが相当であるとした上で、本件解約は「やむを得ない事由」には当たらないにとして無効と結論づけている。
 これに対して本件契約の更新拒否につては、Xの成績、Y職員の指導助言に対するXの態度、精神疾患による2度の長期休業を総合考慮すると、客観的合理的な理由があり、社会通念上も相当であるとしている。
 労働契約法の類推適用がやや唐突な印象を受けるが、控訴審の判断が待たれるともいえる。

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