1102号 労働判例 「ネットワークインフォメーションセンタ−ほか事件」
              (東京地裁 平成28年3月16日 判決)
息子が過重労働、長時間労働等で精神障害を発症、自殺したとして
雇用主等が労働者の両親から損害賠償を請求された事例
過重労働、長時間労働等による精神障害の発症、自殺と損害賠償

 解 説
 〈事実の概要〉
 本件は、自殺したとしてKの両親が、Yら(被告・出向元企業、労働者の雇用主、その出向先企業およびその代表者)に対して、息子Kが過重労働、長時間労働等で精神障害を発症、自殺したとして損害賠償を請求した事例である。
 Kは、Y1に雇用され、在籍したままY2に出向し(本件異動がY1内部の配置転換なのか、Y2への在籍出向なのかについては、当事者に争いがあるが、裁判所は在籍出向と認定)、そこでチョコレ−ト販売事業の店舗管理、在庫管理等の業務に従事してきた。本件の異動は、Kがこれまで経験したことのない百貨店内店舗でのチョコレ−ト販売事業であり、店舗スタッフの採用不足によるトラブルが続いたため、Kは、店舗の人員管理の責任者としてその対応をする必要もあった。本件異動後の平成23年10月20日締めの1か月の時間外労働は172時間である。Kは、平成23年12月28日、自殺したが、その死亡については渋谷労基署長により業務上認定がなされている。本件の争点は、KがなくなったことについてのYらの責任の有無である。
 〈判決の要旨〉
 裁判所は、次のように認定して、Yらの安全配慮義務違反を認定している。Kは、辞し自殺の直前の2か月、月172時間、月186時間の時間外労働に従事し消耗した結果、虚脱感、愚痴、意欲低下、注意力低下といった症状を呈する気分障害等の精神障害を発症し、精神障害による注意力低下によりミスを多発させ、ミスに関して叱責を受けることでさらに消耗し、前記精神障害の症状が進んだ結果、正常な認識をする能力、正常な行為を選択する能力が著しく阻害され、自殺行為を思い止まる抑制力が阻害された状態に陥り、自殺したものと認められるとした上で、出向元のY1の責任についても、出向先のY2の責任についてもY3(出向先のY2の代表者)の責任についても、丁寧な認定を行い、その責任を肯定している。なおY3の会社法429条1項に基づく責任については、前記責任(安全配慮義務)と選択的関係にあるとして判断はしていない。また、Kが仮に労基法41条の管理監督者であっても、Yらは、労働者が過度の長時間労働で心身を害さないための安全配慮義務として労働時間を把握し、適切な措置をとるべき義務があった、としている。また、Kの過重な業務は、K自身のミスによるところもある旨のYらの主張に答えるものであるが、次のように述べているところも興味深い。「仮に、労働者自身の行為や第三者の行為によって、労働者が時間外労働を余儀なくされたとしても、使用者であるY1、Y2およびその代表者であるY3においては、労働者の労働時間を把握し時間外労働になっているときには当該労働者に適切な業務軽減措置を取る義務を負う、としている。 判旨自体に特段目新しい点はないが、出向先事業主、出向元の事業主、さらに出向先代表者の労働者に対する責任(過度の長時間労働でその心身を害さないための安全配慮義務)を詳細に述べていて、実務的にも参考になる。

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