1097号 労働判例 「A農協事件」
              (東京高裁 平成27年6月24日 判決)
約17年間にわたって更新してきた季節労働者の雇止めが妥当とされた事例
季節労働者の雇止めと労働契約法19条の類推適用

 解 説
 〈事実の概要〉

 本件は、A農協(Y、被告)が運営する営農センタ−で季節労働者として約17年間にわたって期間雇用を行ってきたX(原告)が平成24年秋以降について雇止めを受けたことについて、労働契約上の地位確認と未払い賃金等を求めたものである。
 営農センタ−では、おおむね3月下旬から6月中旬までの時期(春期)と9月下旬から11月下旬までの時期(秋期)にXと労働契約を締結していたが、A農協では作業員の求人活動をとくに行っておらず、前年から雇用されている作業員が引き続き雇用されることを見込んだ人員配置と稼働計画を立案していた。各期の作業開始に当たり、電話等で該当の季節労働者に採用希望の連絡があると、稼働計画と申込者(作業員)の都合とを考慮して、作業開始日と作業終了日を決定していた。労働契約書は作業開始日に作成していたが、契約期間の開始後に作成されることもあった。本件紛争が生じる前においては、作業員の採用を希望してYに拒否された者はほとんどなく、作業員の中には10年以上にわたって雇用されていた者が少なくとも13名いた。
 Xは、平成8年からYで勤務することになった。平成14年9月から15年3月までホテルで勤務したことがあったが、15年の春期から、再度Yで勤務することになった。15年の春期以降の契約書には「本契約満了後の再契約は保障されない」との記載があるが、その文言についてYが説明を行ったことはなかった。
 争点は、@本件各労働契約に労働契約法19条2号が適用されるか、A本件再契約拒否の当否、である。
 原審(長野地松本支部判平成26・12・24)は、@について、労働契約法19条柱書において、「期間満了後の契約の締結の申込みについても遅滞なくなされることが求められていることからすると、同条2号においては、前後の契約が時期的に接続したものであることが想定されていることは明らか」であるとして、各期の労働契約の空白期間が長期にわたる本件においては、労働契約法19条が直ちに適用されるものとはいえない、とした。問題は類推適用であるが、労働契約法19条2号が「雇用継続について合理的期待を有する労働者について、使用者が期間満了を理由に契約の継続を拒絶することを制限することによって、労働者の保護を図る趣旨の規定である」とし、本件のように事業自体が特定の季節に限定して定期的に行われる場合には、いったん契約期間が満了し、その後一定の期間が経過したとしても、労働者において次期の再契約を期待することに合理性がある場合も考えられるから、一定の空白期間があることのみで、直ちに同号による保護を否定する理由はない、とする。一定の空白期間があることは季節労働の場合は当然のことであるが、本件では、長期にわたる雇用継続を期待させるような雇用実態があり、労働契約が引き続き締結されることに対するXの期待には合理的な理由があるとして、労働契約法19条2号の「類推適用」を肯定した。これに対してYが控訴。
 〈判決の要旨〉
 控訴審で、裁判所は、本件各労働契約に労働契約法19条2号の適用がないことは、原判決に記載の通り、としながら、19条2号の「類推適用」について、同号が従前の有期労働契約を継続させる一種の法定更新を定める規定であり、法定更新の法律効果の発生を明確にするため、契約期間の満了時までに当該労働契約の申込みをしたこと、または当該労働契約の満了後遅滞なく当該有期労働契約の締結の申込みをしたことを要件として定めるものである、等と述べて、本件では、Xに労働契約法19条2号のの趣旨を及ぼすべき有期労働契約の更新に対する合理的な期待が存在するとは認められないとして、19条2号の「類推適用」を否定し、Xの請求を棄却する。
 季節的労働者については有期労働契約の更新拒否も不利益取扱いの不当労働行為になることは古い事例がある(万座硫黄事件、中労委命令昭和27・10・1命令集7集181頁)。季節的労働者についても雇用継続について合理的期待を有する労働者が存在すると思われるが、季節労働者の雇止めに労働契約法19条の類推適用が認められるか否かを要件・効果についてシビアに検討するよりも、むしろその規定の趣旨・精神を考える必要があるよう思われるが、その点からすれば原審の考え方が妥当であり、Xの請求を棄却する結論には問題があると思われる。

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