1093号 労働判例 「宮城交通事件」
              (東京地裁 平成27年9月8日 判決)
タクシ−乗務員の欠勤・有給取得に伴う賃金控除規定の有効性が争われた事例
欠勤・有給取得に伴う賃金控除規定の有効性

 解 説
 〈事実の概要〉
 本件は、Y(被告)でタクシ−乗務員として雇用されているXら2名(原告)が、Yの賃金控除規定が公序良俗に反して違法無効であるとしてYに対して、それぞれ控除された賃金等の支払いを求めたものである。
 Yの賃金規定によれば、まず基本給として、@タクシ−運転手の1人当たりの月間売上高の合計(月間所定運収入)が42万円以上の者には月額13万5000円を支給し、A月間所定運収入29万2000円以上の者には月額8万800円を支給する。B月間所定運収入29万2000円未満の者には基本給を支給しないとされている。さらに、歩合給として賃金規定によれば、月間所定運収入が42万円以上の者には、(月間所定運収−42万円)×61%が歩合給として支給される。月間所定運収入が29万2000円以上、42万円未満の者には、(月間所定運収入−29万2000円)×61%が歩合給となる。なお、最低保障給として「過去3か月の歩合合計÷過去3か月の総労働時間数×60%×当月労働時間単価」を支給するとされ、接客手当として1000円、出番手当として600円、無事故手当として2000円が1乗務ごとに支給される。隔日勤務の乗務員の労働時間および勤務日数は、1乗務14時間15分、1か月の乗務日数は12乗務が原則であったが、乗務の都合により特定の日に14時間15分、特定の週に40時間を超えて勤務させることがあるとされていた。賃金控除については、欠勤控除と有給取得控除があり、控除額は、基本給÷月間所定勤務日数×(欠勤日数+有給取得日数)、であった。X1は、5万6900円の、X2は7万円余の控除を受けていた。
 Xらは、本件賃金控除が労基法136条の趣旨に違反し公序良俗に反するものである等と主張していた。
 〈判決の要旨〉
 裁判所は次のように判示する。Yのように基本給の額を月間所定運収入額に応じて2段階にすることは基本給としての性格に矛盾するものではなく、必ずしも不合理とはいえない。さらにその基準をみても、月間所定運収42万円という額が不当に高額であるとは認めがたい。月間所定運収入が29万2000円未満の者に基本給を支給しない制度であるからといって、当該制度全体が歩合給制度であることになるわけでもない。
 本件賃金控除が労基法136条の趣旨に違反し公序良俗に反するものであるかについてつぎのように判示する。労基法136条は、それ自体としては、使用者の努力義務を定めたものであり、労働者の有給休暇の取得を理由とする不利益取扱いの私法上の効果を否定するまでの効力を有するとは解されず、前記のような措置の効力については、その趣旨、目的、労働者が失う経済的利益の程度、有給休暇の取得に対する事実上の抑制力の強弱等諸般の事情を総合して、有給休暇を取得する権利の行使を抑制し、ひいては同法が労働者に前記権利を保障した趣旨を実質的に失わせると認められるものでない限り、公序に反して無効となるということはできない(最3小判昭和60・7・16、最2小判平成5・6・25参照)。本件有給取得控除が、タクシ−乗務員の有給休暇を取得する権利の行使を抑制し、ひいては同法が労働者に前記権利を保障した趣旨を実質的に失わせるとまで認めることはできない。また出番手当等の金額は、1出番当たり合計3600円にとどまるもので、それ自体有給休暇の取得を抑制するほどの効果があるとは認めがたい。
 タクシ−乗務員の有給休暇の取得に関連しての「控除」が争点になった興味深い事例である。

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