1091号 労働判例 「ハマキョウレックス(差戻審)事件」
              (大津地裁彦根支部 平成27年9月16日 判決)
有期の労働契約を締結した労働者の期間の定めのない労働契約の成否と労働契約法20条
有期の労働契約と労働契約法20条違反の成否
  解 説

 〈事実の概要〉
 本件は、一般貨物自動車運送業等を営む会社(Y社、被告)に勤務する契約社員・運転手Xらが、Yとの間に期間の定めのない労働契約が成立している、または仮にそうでないとしても、正社員であるドライバ−との労働条件に差があるのは労働契約法20条に違反して無効であるとして、Yに対して、正社員と同一の権利があると主張して、そのような地位にあることの確認を求めるとともに、正社員が通常受給すべき賃金との差額の支払い等を求めた事件の差戻審である。

 〈判決の要旨〉
 裁判所は次のように判示している。@Xらは、平成20年9月28日のDと原告Xとの面接において、月額の手取賃金を30万円以上とすることの合意および始期付き無期労働契約の合意があったとみることができる事実経過が記載された平成24年7月13日付けのY(C支店長E)と本件労働組合(分会長X)との事実確認書の存在を根拠に、これらの合意の存在を主張するが、・・・上記事実確認書は、Yと本件労働組合との団体交渉の中で、本件労働組合側の出席者による、Yの大口取引先に対する面談要求や街宣活動を予告するなどの威圧的言動にYのC支店長Eが屈し、Xの主張に依拠して作成されたもので、その内容は任意に確認されたものとは認めがたく、信用性に乏しい。結局、Xらの主張に係る月額の手取賃金を30万円以上とすることの合意および始期付き無期労働契約の合意は、いずれも認めることはできないから、無事故手当、作業手当、給食手当、住宅手当、皆勤手当、家族手当、通勤手当、および一時金の支給、定期昇給ならびに退職金の支給に関し、XがYの正社員と同一の権利を有する地位にあることの主張については採用することはできない。
 それでは、本件労働条件は、公序良俗または労働契約法20条に違反して無効であるかについて、裁判所は次のように判示する。A労働契約法20条における「不合理と認められる」ものとは、有期契約労働者と無期契約労働者間の労働条件上の相違が、それら労働者間の職務内容や職務内容・配置の変更の範囲の異同にその他の事情を加えて考察して、当該企業の経営・人事制度上の施策として不合理なものと評価せざるを得ないものを意味すると解すべきであるが、YのC支店においては、正社員であるドライバ−と契約社員のドライバ−の業務内容自体に大きな相違は認められないものの、・・・@従業員のうち正社員は、業務上の必要性に応じて就業場所及び業務内容の変更命令を甘受しなければならず、A出向も含め全国規模の広域異動の可能性があるほか、BYの行う教育を受ける義務を負い、C将来、支店長や事務所の管理責任者等のYの中核を担う人材として登用される可能性がある者として育成されるべき立場にあるのに対して、契約社員は、業務内容、労働時間、休息時間、休日等の労働条件の変更があるにとどまり、就業場所の異動や出向等は予定されておらず、将来、支店長や事務所の管理責任者等のYの中核を担う人材として登用される可能性がある者として育成されるべき立場にあるとはいえない。Yにおけるこれら労働者間の職務内容や職務内容・配置の変更の範囲の異同等を考察すれば、少なくとも無事故手当、作業手当、給食手当、住宅手当、皆勤手当、家族手当、および一時金の支給、定期昇給ならびに退職金の支給に関する正社員と契約社員との労働条件上の相違は、Yの経営・人事制度上の施策として不合理なものとはいえないから労働契約法20条に反するとはいえない。
 これに対して、正社員と契約社員との通勤手当に関する相違は、不合理であり、労働契約法20条に反する。なお、労働契約法20条違反の効果は、Yが不法行為責任を負う場合があるにとどまるとしている。
 労働契約法20条の「不合理なもの」に関して判断した事例として興味深い。

BACK