1085号 労働判例 「国・池袋労基署長(光通信グループ)事件」
              (大阪高裁 平成27年9月25日 判決)
営業職マネージャーの虚血性心不全死につき業務起因性を認めた控訴審の事例
従業員の虚血性心不全死の業務起因性

 解 説
 〈事実の概要〉
 本件は、Kの両親Xらが、Kが光通信との間で雇用契約を締結し、同社の子会社に出向して営業職として勤務していた際に長期間にわたる長時間労働および精神的負荷を伴う業務に起因する虚血性心不全(以下では 「本件疾病」という)により死亡したとして池袋労基署長(以下では「本件処分行政庁」)に対して労災保険法に基づく遺族補償給付等を請求したところ、本件処分行政庁がこれらの給付等を支給しない旨の処分をしたため、Xらがその取消を求めた事案である。Kは、昭和51年生まれの男性であり(死亡当時33歳)、Xらはその両親である。
 光通信は、OA機器、電話機等の販売おうおびリースを目的として設立された会社であり、光通信およびその子会社(光通信グループ)において事業を展開していたが、Kは、平成19年4月、法人を顧客とするOA機器のリース販売の責任者となり、全体的な業務量が増えた。Kは、同年3月ころから、退勤時間が午後9時または10時をすぎることがしばしばあり、平均して1か月に2、3日程度は所定休日に出勤していた。本件疾病の発症前36か月(平成19年2月21日からの1か月)ないし21か月のKの時間外労働時間数は100時間を超えた月が11か月、80時間を超えた月が4か月、45時間を超えた月が6か月であった。Kは、21年初めころから「疲れた」「しんどい」としばしば述べるようになっていた。Kは、平成22年2月5日早朝、自宅で頭痛等を訴えて病院に搬送されたが、同日本件疾病により死亡した。
 本件の争点は、本件疾病が業務に起因するか否かである。第1審(大阪地判平成27・2・4労判1119号49頁)は、Kが従事していた業務が、長期間にわたる長時間の業務その他血管病変等を著しく増悪させる業務(長期間の過重業務)に該当するということができれば、特段の反証のないかぎり、本件疾病およびこれを原因とする死亡は業務に起因するものであるということができるということを述べ、Kの業務の過重性を判断するに当たっては、本件疾病発症前6か月の業務の過重性を判断し、その上で、本件疾病発症前6か月より前の業務の過重性を付加的に検討するのが相当であるとした。そして、結論的には、Kは、従事していた業務により疲労を蓄積し、血管病変等を自然経過を超えて著しく増悪していたとして業務起因性を肯定した。なお同人には、喫煙および軽度の脂質異常というリスクファクターが存在していたということを考慮しても、上記業務と本件発症との間には相当因果関係があり、本件処分は違法なものとして取消を免れない、とした。本件は、被告側が控訴していたものであるが、1審判決の結論を維持した。
 〈判決の要旨〉
 上で述べたように本判決も1審判決の結論を維持したが、控訴審も次のように判示する。すなわち、@亡Kの従事していた業務が、長期間にわたる長時間の業務その他血管病変等を著しく増悪させる業務に該当する場合には、特段の反証のないかぎり、上記業務と本件発症との相当因果関係が肯定され、本件疾病およびこれを原因とする死亡は業務に起因するものといえる、AKは、少なくとも本件発症前36か月頃からの恒常的な長時間により疲労を蓄積していたところ、本件発症前15か月頃から業務が質的にも量的にも過重なものとなったことにより血管病変等(冠動脈の粥状硬化)が自然経過を超えて著しく増悪したこと、本件発症前10か月頃からはそれまでと比べれば労働時間は短くなったものの、引き続き1か月当たり45時間を超える時間外労働に従事し、その業務に伴う精神的負荷も相当大きかったことから、それまでに蓄積した疲労を解消することができず、そのため自然経過を超えて著しく増悪した血管病変等が引き続き維持され、あるいはさらに増悪し、最終的には、冠動脈の攣縮の発生をきっかけとして本件発症をしたとして、Kが従事していた業務は、長期間の過重業務に該当すると。
 本判決は、認定基準に該当しない場合も、本件発症6か月より前の就労実態を示す明確な資料がある場合には付加的な評価の対象になることを明確に示した点で注目される控訴審判決である。

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