1084号 労働判例 「穂波事件」
              (岐阜地裁 平成27年10月22日 判決)
飲食店店長が労基法41条2号の管理監督者とは認められなかった事例
飲食店店長と管理監督者性
  解 説

 〈事実の概要〉
 本件は、平成20年7月からY(被告穂波)に勤務しているX(原告)がYに対して、23年9月分から25年9月分の未払いの時間外・休日・深夜割増賃金があるとして、同賃金と労基法114条に基づく付加金の支払い等を求めた事例である。
 Yは、ショッピングセンター内のフードコートで和食、洋食および中華の店舗を経営する会社であり、平成26年3月現在の店舗数は99、正社員数は93名であり、そのほかに各店舗で採用するパート、アルバイト従業員が多数いた。Xは、平成20年7月にYの正社員となり、副店長、店長代理、ジュニア店長を経て、平成24年7月21日から 現在まで店長の役職を与えられて稼働してきたが、25年9月2日以降、うつ病のため休職している(26年10月に、同疾病について労災認定を受けている)。
 Xに対して支払われた月例賃金は、基本給、積立手当、役職手当、管理者手当(平成24年1月からは「管理固定残業」に名称を変更)、報奨金、能率手当(平成24年1月からは「能率(残業)に名称を変更)および通勤手当である。管理者手当(管理固定残業)は就業規則上、「管理職手当」として各役職(店長、部長等)に応じて支給するとされ、労働条件通知書では、「9時半以前及び店舗閉店時刻以降に発生するかもしれない時間外労働に対しての残業手当のみなし相当額」とされ、Xの場合、83時間分を10万円の固定で支払うものとされ、毎月10万円が支給されていた。能率手当(能率(残業))は、就業規則上、各役職(店長、部長等)に応じて支給するとされ、Xの能率手当の1時間当たりの単価は1200円であった。同手当の対象となる時間は、各自がタイムカードの短縮時刻欄に記入し、給料日の締め日である毎月20日以降、報奨金報告書に記載し、本部に各自申請した。Xが、店長を勤めていた店舗には、副店長がいる場合といない場合があり、各店舗の従業員の構成は、副店長がいる場合にはXと副店長が正社員、いない場合にはXのみが正社員であって、その他はパート等従業員であった。Yにおいては、店長の上に複数の店舗を統括するマネージャーが配置され、店長はマネージャーに対して報告をしていた。Xが店長をしていた各店舗の閉店時間は21時または23時であり、各店舗の営業時間はあらかじめ決まっており、店長がこれを変更することはできず、店長の判断で店舗を休業することはできなかった。店長は、パート等従業員を新たに採用するかどうかを判断し、募集に応じてきた者を面接し、採用するかどうか、勤務時間をどうするかを決定することができた。その時給についてはYの決めた範囲で店長が決定することができた。昇給については、店長からマネージャーを通じて本部の承認が必要であった。
 各店舗におけるシフト制は、店長が決定するが、シフト表はマネージャーに提出する必要があった。店長は、店長会議に出席していたが、Yの経営方針の決定などについては関与していなかった。
 本件では、さまざまな点が問題になっているが、最大の問題は、やはりXの管理監督者性であり、Xに支払われていた手当等の性格である。
 〈判決の要旨〉
 判決は、まず、Xが労基法41条2号の管理監督者と認められるためには、店長の名称だけではなく、実質的に、企業経営上の必要から、経営者と一体的な立場において、同法所定の労働時間の枠を超えて事業活動をすることを要請されてもやむを得ないといえるような重要な職務と権限を付与されて、賃金等の待遇やその勤務態様において、他の一般従業員に比べて優遇措置が取られているので、労働時間等に関する規定の適用を除外されても、労基法の定める労働時間に関する基本原則に反するような事態が避けられ、当該労働者の保護に欠けるところがないという趣旨を充足するような立場にあると認められるものでなければならず、具体的には、@職務内容、権限および責任に照らし、労務管理を含め、企業全体の事業経営に関する重要事項にどのように関与しているか、Aその勤務態様が労働時間等に対する規制になじまないものであるか否か、B給与(基本給、役付手当等)および一時金において、管理監督者にふさわしい待遇がなされているかなどの諸点から判断すべきとし、Yの「店長」としてXに与えられている権限は、担当店舗に関する事項に限られていて、Yの経営全体についてXが決定に関与することがなされていたとは認められず、企業経営上の必要から、経営者と一体的な立場にあったとはいえないからXが労基法41条2号の管理監督者に該当するとは認められないとした。
 なお、YがXに支払っていた管理者手当(管理固定残業)は時間外労働に対する手当として扱うべきでなく、月によって定められた賃金として、時間外労働等の割増賃金の基礎とすべきであるとされた点も重要であろう。

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