1083号 「類設計室(取締役塾職員)事件」
       (京都地裁 平成27年7月31日 判決)
従業員の全員が取締役職員である場合の労働者性と割増賃金
取締役職員の労働者性
  解 説
〈事実の概要〉
 被告Y(類設計室)は、建築物ならびに都市開発の企画・設計および工事監理のほか学習塾の経営ならびに教育に関する調査・企画および助言等を目的とする会社であるが、Yは、「類塾」の名称で学習塾を開き説・運営している。Yの所員数は、約520名であるが、そのうち類塾の所員数は、300名以上に及んでいる。
 注目されるのは、Yに入社した者は6か月の試用期間を経たあと、正社員となるが、その際、株式を譲り受けて株主となり、取締役への就任を承諾する旨の文書を差し入れることになっていることである。X(原告)は、平成23年3月11日から25年12月21日までYの類塾に在籍していたが、6か月の試用期間を経たあと、Yに対して取締役への就任を承諾する旨の文書を差し入れ形式上Yの取締役とされ、Yの株式も購入していた。他方、XのYにおける肩書きは「教育コンサルタント」えあって、その業務は「営業」であった。また、Xは、25年1月頃から、講師の仕事もしていた。なおYでは、正社員について「経営会議」への参加の権利と義務を有するとされていたが、取締役として業務を執行する旨は、規約(類共同体規約)には明記されていなかった。
 本件は、XがYの取締役であったことを理由に残業代の支払いを受けなかったとして、平成23年12月から25年12月までの残業代および労基法114条所定の付加金の支払い等を求めたものである。
 〈判決の要旨〉
 裁判所は、労基法の労働者に該当するといえるか否かの問題は、個別的労働関係を規律する立法の適用対象となる労務供給者に該当するといえるか否かの問題に帰するところ、この点は、当該業務従事者と会社との間に存する客観的な事情をもとに、当該業務従事者が会社の実質的な指揮監督関係ないし従属関係に服していたか否かという観点に基づき判断すべきとした。そして、Yが、XはYの取締役であり労働者ではないと主張していても、Yの取締役就任の経緯、その法令上の業務執行権限の有無、取締役としての業務執行の有無、拘束性の有無・内容、提供する業務の内容、業務に対する対価の性質および額、その他の事情を考慮しつつ、当該業務従事者が会社の実質的な指揮監督関係ないし従属関係に服していたか否かという観点から判断するとして、本件で、Xの労働者性を否定する事情は見いだしがたいとされ、Xは、労基法の労働者に該当するであったと認められるとした。
 また、本件で時間外手当の不支給が労基法37条に違反することは明らかであり、労基法114条に基づいてYに対して過去2年分のXの時間外手当にかかる付加金の支払いを命じるのが相当であるとした。
 Xの労基法の労働者性に関する判断も労基法114条に基づく付加金の支払いを命じる点も当然といえば当然の判断であるが、取締役としての就任といういわば「奇手」もXに法令上の業務執行権限がない以上当然の結論といえる。

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