1081号 労働判例 「大阪地公災支部事件」
              (大阪高裁 平成27年6月19日 判決)
地方公務員災害補償法における遺族補償年金等の支給が配偶者のうち
夫(男性)について年齢要件を定めることは憲法14条に違反しないとされた事例
地公災法の遺族補償年金等の支給に関する夫(男性)の年齢要件の適法性
  解 説

 〈事実の概要〉
 本件は、原告Xの妻(地方公務員)が、公務により精神障害を発症して自殺したため、Xが被告Y(地方公務員災害補償基金)の大阪支部長に対して地方公務員災害補償法(地公災法)に基づく遺族補償年金等の支給を請求したところ、処分行政庁がいずれも不支給とする処分をしたため、XがYに対して各不支給処分の取消を求めていた事案である。同法では、配偶者たる妻には年齢要件はないものの、夫については職員の死亡当時60歳(当分の間は55歳)以上であること等の要件が付されていたため、同要件を満たさないXについては不支給処分がなされていたため、Xは、配偶者のうち夫(男性)についてのみ年齢要件を定めるのは、法の下の平等を定めた憲法14条に違反する違憲・無効であるとして訴えていた。この点について、原審(大阪地判平成25・11・25)は、次のように判示して、上記地公災法の年齢要件を憲法14条1項に違反する違法・無効なものとした。すなわち、立法当時には一定の合理性があった制度も、女性の社会進出が進み、男性と比べれば依然不利な状況にあるというものの、相応の就業の機会を得ることができるようになってきている今日、配偶者の性別において受給権の有無を分けるような差別的取扱いはもはや立法目的との間に合理的関連性を有しないというべきであり、遺族補償年金の第一順位の受給権者である配偶者のうち、夫についてのみ60歳以上(当分の間は55歳以上)との本件年齢要件を定める地公災法32条1項ただし書および同法附則7条の2第2項の規定は、憲法14条1項に違反する不合理な差別的取扱いとして違憲・無効である、と。これに対してYが控訴していた。
 〈判決の要旨〉
 控訴審では、Yの主張を容れて次のように判断している。地公災法の定める遺族補償年金は、職員の死亡により扶養者を失った遺族の生活保護を目的としたもので、基本的に社会保障制度の性格を有するものであるが、このような社会保障制度については、憲法25条の規定の趣旨にこたえて具体的にどのような立法措置を講じるかの選択決定は、立法者の広い裁量に委ねられている。したがって、それが著しく合理性を欠き明らかに裁量の逸脱・濫用とみざるを得ないような場合を除いて、裁判所が審査判断するのに適しない事柄である(堀木訴訟・最大判昭和57年7月7日、民集36巻7号1235頁)。したがって、地公災法32条1項等が遺族補償年金の受給要件につき本件のような区別を設けていることは、「それが著しく合理性を欠き、何ら合理的理由のない不当な差別的取扱いである場合に、憲法14条1項に違反することになると解される」。
 続いて、規定の合理性について、次のように判断している。すなわち、地公災法制定当時の社会情勢(女性の労働力率、平均賃金月額等)下において、配偶者間に区別を設け、妻に年齢を問わず受給を認めたのは、合理性を欠くものであったとはいえない。そして、現在でもこの社会情勢に基本的な変化はなく、また女性の非正規雇用の割合は高く、専業主婦世帯数は専業主夫世帯数よりはるかに多いことに照らせば、夫が死亡した場合、専業主婦世帯においても共働き世帯においても、妻が独力で生計を維持することができなくなる可能性は高いというべきである。このような事情からすれば、妻について年齢を問わずに遺族補償年金の受給を認め、夫については、年齢を問わず「一般に独力で生計を維持することが困難である」とは認められないとして、一定の年齢に該当する場合に遺族補償年金を受給することができるとする本件区別は合理性を欠くものとはいえない。なお、自由権規約26条、社会権規約3条は、違憲審査基準について立法府の広い裁量を否定するものではない。
 このように控訴審では、堀木訴訟の最高裁大法廷判決に依拠して、立法措置は立法者の広い裁量に委ねられており、それが著しく合理性を欠き明らかに裁量の逸脱・濫用とみざるを得ないような場合を除いて、憲法14条1項の差別取扱いとは認められないとされることになった。本件同様の規定は、国家公務員災害補償法(16条1項)、労災保険法(16条の2第1項)にもあり、また、厚生年金保険法の遺族年金にも同様な年齢要件が定められている(59条1項)。これらの規定も、社会情勢の変化に応じていずれ対応が求められることになると思われるが、その場合に、どのような措置・内容が合理的か、比較法的な検討を含めて今から考えておく必要がありそうである。

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