1078号 労働判例 「日本電気事件」
              (東京地裁 平成27年7月29日 判決)
統合失調症の疑いがあるとして休職していた者の休職期間満了による退職扱いが有効とされた事例
休職期間満了による退職扱いの有効性

 解 説
 〈事実の概要〉

 本件は、日本有数のコンピューターメーカーであるY社(被告)に雇用されて、業務外の傷病により休職していたX(原告)が、就業規則の定めに基づき休職期間満了による退職扱いとされたことに対して、休職期間満了時に就労は可能であったとして地位確認および賃金等の支払いを求めていたものである。
 Xは、平成15年4月1日、Yから総合職として雇用され、システムエンジニアとして1年、ソフトウェア開発部門に3ヵ月従事した後、16年10月頃から22年4月まで約5年7ヵ月、予算管理の部門に従事していた。予算管理の部門にに配置されたのは、Xが他者との意思疎通がうまくできず、納期が守れない等と評価されたため、対人交渉が比較的少ない同部門が選ばれた経緯がある。Xは、予算管理部門に配置された後も、「自殺したい」「死にたい」など不穏な言動等を繰り返したが、同年7月30日にYから24年2月29日までの休職を命じる旨の命令を受け(本件休職命令)、さらにYから休職期間満了の24年2月29日をもって自然退職となる旨の告知を受けた(本件退職扱い)。なおYの就業規則には、休職中に休職事由が消滅した者は、復職させる旨の規定がある。本件の争点は、上記当日、Xの「休職事由が消滅し」ていたかどうかである。なお、X が通院していたA大学付属K病院の精神科のK1医師(Xの主治医)は、当初、Xについて統合失調症(疑い)と判断していたが、22年9月、アスペルガー症候群と判断し、また、Xが転院したB病院のB1医師も、Xについてアスペルガー症候群との診断を行い、24年1月31日までの休職が必要である旨の診断書を書いていたが、24年1月17日、「アスペルガー症候群・・・・・・改善が認められるので、24年3月1日より復職見込みと判断する」との診断書を書いている。Yでは、24年2月6日から同月17日まで、試験出社を行ったが(業務は一切行わず)、最終的に試験出社の際のXの状態に基づいてコミュニケーション能力や社会性について回復が見られず、適当な総合職の職務はないと判断されている。
 〈判決の要旨〉
 裁判所は、就業規則の定める復職要件である「休職事由が消滅」とは、労働契約における債務の本旨に従った履行の提供がある場合をいい、原則として、通常の職務を通常の程度に行える健康状態になった場合、または当初軽易作業に就かせればほどなく従前の職務を通常の程度に行える健康状態になった場合をいい、労働契約が職種や業務内容を特定せずに締結されている場合には、片山組事件の最高裁判決(最1小判平成10・4・9労判736号15頁)を踏まえて、現に命じられた業務を十全になし得ないとしても、当該労働者が配置される現実的可能性のある他の業務について労務の提供ができ、かつ、その提供を申し出ているならば、なお債務の本旨に従った履行の提供があるとしている。
 復職の可否の判断においては、障害者基本法、発達障害者支援法、障害者雇用促進法による障害者の雇用にかかる責務の趣旨も考慮すべきであるが、これらは努力義務にとどまり、平成28年施行予定の改正障害者雇用促進法の定める合理的配慮の提供も、労働契約の内容を逸脱する過度な負担を伴う配慮の提供義務を事業主に課するものではないとしている。
 そして、本件休職期間満了時において、Xが従前の職務である予算管理業務を通常の程度に行える健康状態、または当初軽易作業に就かせればほどなく従前の職務を通常の程度に行える健康状態になっていたとは認められず、また、障害者をどのような状態であろうと受け入れる義務がY社にあるとは認められないことから、YによるXの退職扱いを有効としている。
 平成28年4月に施行予定の改正障害者雇用促進法では障害者雇用のために合理的配慮の提供が定められているが、本件は、具体的に問題となるケースを考える上で実務的にも重要な判決である。

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