1064号 労働判例 「品川労働基準監督署長事件」
              (東京地裁 平成27年1月21日 判決)
会社の納会での飲酒により急性アルコール中毒死で死亡した労働者について業務起因性が否定された事例
会社の納会での飲酒による急性アルコール中毒死と業務起因性

 解 説
 〈事実の概要〉
 電子機器用変圧器等の製造を行うZ社に雇用されていたGは、平成23年12月28日、社内清掃が行われた後、午後0時45分頃から行われた会社主催の年納め納会で飲酒し、急性アルコール中毒を発症して死亡したが、本件は、その妻であるXが、Gの死亡は業務上の事由に基づくものであるとしてY監督署長に対して遺族補償給付等の請求をしたところ不支給処分を受けたためその取消を求めていたものである。
 納会は、会社が費用全額を負担し、仕出し弁当、煮物、石狩鍋、漬物、果物等とともに缶ビール(350ml)12本、日本酒(1.8リットル)1本、ジュース1本が飲食に供され、会社代表者やGを含む従業員全員等の合計7名が参加した。
 Gは、本件納会に参加して飲食し、その際、会社から提供されたビール、日本酒を飲んだところ、本件会社の支店の従業員と電話で年末の挨拶を交わした午後2時30分過ぎには、呂律が回らない状況にあったが、その後、嘔吐し、嘔吐物の吸引により呼吸がなくなり、病院に運ばれたが死亡した。
 なお、従業員の本件納会への参加は、本件会社により強制されたものではなく、従業員の任意とされていたが、会社は、本件納会の開催時間(ほぼ1時間と見込まれていた)および終了後の時間を含めて、所定労働時間である午後5時までの所定労働時間における勤務を前提として賃金支払いを行っている。
 〈判決の要旨〉
 裁判所は、次のように判断している。労働者の死亡等が業務上の事由に基づくといえるためには、業務と死亡等との間に相当因果関係があることが必要であるが、相当因果関係があるといえるためには、被災労働者が労働契約に基づき事業主の支配下にあること(業務遂行性)を前提として、当該死亡等が被災労働者の従事していた業務に内在する危険性が現実化したことによるものと評価されること(業務起因性)が必要であると解される。 本件納会への参加に業務遂行性が認められるか否かについては、次のように述べる。労働者が本件納会への参加は任意参加であり、散会後には適宜帰宅することが許されていたのであるが、他方、本件納会は、会社内において会社が主催し、会社の費用全額負担の下、提供される飲食物を用意した上で、所定労働日における所定労働時間を含む時間帯に開催されたものであり、会社代表者やGを含む従業員全員が参加し、当日は、所定終業時刻である午後5時までの勤務を前提として賃金支払いが行われている。したがって、本件納会の趣旨・性格やその開催に係る上記の事実関係を総合考慮すれば、本件納会をもって、会社の本来の業務や これに付随する一定の行為に属するとはいえないが、他方、参加者については勤務扱いを受けることを前提とする会社主催の行事であるというべきであるから、これを純然たる任意的な従業員の親睦活動とみることはできず、労働関係上、本件会社の支配下にあったと認めるのが相当である。したがって、Gの本件納会への参加には、業務遂行性が認められる、と。
 他方、業務起因性については、本件のGの急性アルコール中毒が本件納会における飲酒行為によって発症したものであることは明らかであり、Gの当該飲酒行為が、本件納会の目的を逸脱した過度の態様によるものであると認められる場合には、前述の急性アルコール中毒の発症は、業務に内在する危険性が現実化したもものとはいえず、業務起因性は認められないとの判断枠組みをとった上で、Gの本件納会での飲酒が、自らの意思に基づくもので、缶ビール(350ml)2、3本、日本酒(1.8リットル)の大半を一人で飲み切るという1本Gの当該飲酒行為が、本件納会の目的を逸脱した過度の態様によるものであるとことは明らかであるとし、結論として、業務起因性を否定している。妥当な判断というべきであろう。

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