1063号 労働判例 「学校法人専修大学事件」
              (最高裁第2小法廷 平成27年6月8日 判決) 高裁判決は同号掲載 地裁判決は1008号参照
労災保険法に基づく療養補償給付を受ける労働者が、労基法19条にいう労働者と認められるとされた事例
労基法19条の解雇制限と労災保険法

 解 説
 〈事実の概要〉
 本件は、労災保険法に基づく療養補償給付および休業補償給付を受けていた労働者X(原告、被控訴人、被上告人)が、Y(被告、控訴人、上告人)から労基法81条に基づく打切補償として平均賃金の1200日分相当額の支払いを受け、労基法19条の解雇制限を受けなくなったとして解雇されたことについて、Xは、労基法81条にいう「同法75条の規定によって補償を受ける労働者」には該当せず、上記解雇は労基法19条1項ただし書所定の場合に該当せず、同項に違反し無効であるなどと主張して、Yを相手に労働契約上の地位確認等を求めた事案である。
 Xは、学校法人であるYとの間で、平成9年4月1日、労働契約を締結して勤務していたが、同14年3月頃から肩凝り等の症状を訴えるようになり、同15年3月13日、頚肩腕症候群(以下「本件疾病」)にり患しているとの診断を受けた。Xは、同年4月以降、本件疾病が原因で欠勤を繰り返すようになり、平成18年1月17日から長期にわたり欠勤した。本件疾病は、中央労働基準監督署によって、平成19年11月6日、同15年3月20日の時点で業務上の疾病に当たると認定し、労災保険法に基づく療養補償給付および休業補償給付の支給決定がなされている。
 Yでは、災害補償規程があり、それによれば、@専任の勤務員が業務災害等により欠勤し、3年を経過しても就業できない場合は、勤続年数に応じて所定の期間を休職とする旨の規定があり、A専任の勤務員が休職期間を満了してもなお休職事由が消滅しない場合は、解職となるとし、B上記Aの規定に該当して解職となるときは、労基法81条の規定を適用し、平均賃金の1200日分相当額を打切補償金として支払う旨、定めていた(Xの場合、勤続年数が10年以上20年未満の場合、休職期間は2年)。
 Yは、平成21年1月17日、Xの同18年1月17日以降の欠勤が3年を経過したが、本件疾病の症状にはほとんど変化がなく、就労できない状態が続いていたことから、上記規程に基づき、Xを同21年1月17日から2年間の休職とした。平成23年1月17日、上記の2年間の休職期間が経過したが、Xは、Yの復職の求めに応じず、Yに対して職場復帰の訓練を要求した。これを受けてYは、Xが職場復帰をすることができないのは明らかであるとして、同年10月24日、上記規程所定の打切補償金、1629万3996円を支払って、Xを解雇する旨の意思表示をした。なおそれ以外に、Yは、本件規程に基づく法定外補償金として、合計で1896万円余を支払っている。
 原審は、上記の事実関係に基づいて、労基法の文言上、労災保険法に基づく療養補償給付および休業補償給付を受けている労働者が、労基法81条にいう「同法75条の規定によって補償を受ける労働者」に該当すると解することは困難であり、したがって本件解雇は労基法19条ただし書所定の場合に該当するものとはいえず、同項に違反し無効であるとしていた。
 〈判決の要旨〉
 破棄差戻し。最高裁は、労災保険法に基づく保険給付の実質は、使用者の労基法上の災害補償を政府が保険給付の形式で行うものであり、使用者の自らの負担により災害補償が行われている場合と、これに代わるものとして労災保険法に基づく保険給付が行われている場合とで、労基法19条1項ただし書の適用の有無につき、取扱いを異にすべきもとはいい難い、また、後者の場合には、打切補償として相当額の支払いがなされても、傷害または疾病が治るまでの間は、労災保険法に基づき必要な療養補償給付などがなされることを勘案すれば、これらの場合につき、これらの場合につき同項ただし書の適用の有無につき異なる取扱いがなされなければ労働者の利益につきその保護を欠くことになるともいい難い、として原判決を破棄して、原審に差し戻した。
 原審は、あまりにも法の文言にこだわった解釈を行って、労災保険法の意義を蔑ろにするものであったと思われる。労災保険法の意義を踏まえた最高裁の判断の方が妥当であろう。差戻審では、解雇の労働契約法16条該当性の有無が審査されることになる。

BACK