1057号 労働判例 「イーライフ事件」
              (東京地裁 平成25年2月28日 判決)
競業行為等への加担で解雇された元社員による退職金の請求は斥けられたが
割増賃金、付加金の請求が認められた事例

競業行為等への加担の違法性
 〈事実の概要〉
 本件は、ポータルサイトの運営およびIT関連事業、情報システム開発等を業とするY社(被告)に雇用されていたX(原告)が、在職中に、Xの上司であった取締役のF(Y社を退職したうえで、本社を千葉県市川市とする、Y社と同種・同業の株式会社Gを設立し、同社の代表取締役に就任していた)から依頼を受けて、平成21年12月から23年1月まで、1年間以上にわたりG社の業務を請け負い、顧客の奪取に加担したとして懲戒解雇されたのに対して、(1)懲戒解雇事由があるとしても重すぎるものであるなどとして 、退職金の請求を求めるとともに、(2)割増賃金およびこれに伴う付加金の請求を求めて いたものである。なお、Xは、Fの依頼に応じたことで、Fから現金約10万円を受け取るとともに飲食代金をおごってもらうなどしていた。
 Xの上記加担行為は、X宅だけではなく、Y社での就労時間中においてY社のパソコンを利用して行われていた。Y社は、Xの加担行為は、就業規則に定める懲戒事由(勤務態度、職場規律違反等)に該当するとして、平成23年1月19日、Xに対して翌日の20日付けで懲戒解雇した。なお、Y社の退職金規程には、退職事由が懲戒解雇の場合には退職金を支給しない、とされていた。また、Y社の給与規程には、精勤手当について、「会社は、営業社員について本規程第15条の超過勤務手当に代えて、精勤手当を定額で支給する。なお、超過勤務手当が精勤手当を超える場合には、その差額を支給するものとする」と定められていた。なお、Xは、精勤手当は、「残業手当」の趣旨で支払われている手当ではないと主張していた。
 〈判決の要旨〉
 上記(1)について、裁判所は、労働者は、雇用契約の継続中、使用者の利益に著しく反 する競業行為および顧客等の奪取行為を差し控える義務(「競業避止義務等」)を負っているが、本件競業行為等への加担は、上記競業避止義務に著しく違反する悪質な行為であり、本件懲戒解雇は、「客観的に合理的な理由」を欠くものではなく、かつ、社会通念上も相当と認められ、有効とした。そして、本件競業行為等への加担は、競業避止義務に著しく違反する悪質な行為であって、Xの勤続の功を抹消してしまうほどの著しい信義に反する行為(背信行為)であったとの評価が十分に成り立つものと考えられ、従業員であったXが、上記評価を障害する事実を立証しない限り、本件退職金の不支給規定は、Xの退職金請求に対して全面的に適用される、またXによる上記評価を障害する事実の立証がない本件では、Xの退職金請求には理由がないと結論づけた。妥当な判断であろう。
 (2)では、いわゆるみなし残業合意が問題とされている。この点について、裁判所は、 みなし残業合意が有効とされるためには、@当該手当が実質的に時間外労働の対価としての性格を有していること、A定額残業代として労基法所定の額が支払われているかどうかが判定できるように、その約定(合意)の中に、明確な指標が存在していること、B当該定額(固定額)が労基法所定の額を下回るときは、その差額を当該賃金の支払時期に精算するという合意が存在するか、あるいは少なくともそうした取扱いが確立していることが必要不可欠であるとした上で、@の要件を満たすためには、少なくとも当該手当が、(ア) 時間外手当に従事した従業員だけを対象として支給され、しかも、(イ)時間外労働の対価 以外に合理的な支給根拠(支給の趣旨・目的)を見いだすことができないことが必要であり、Aの要件を満たすためには、少なくとも当該支給額に固定性(定額性)が認められ、かつ、その額が何時間分の時間外労働に相当するのかが指標として明確にされていることが必要であるとした。これに対して、Xに支給されていた精勤手当は、その支給額が本件の請求期間だけでも数回にわたって変動しており、そうだとすると、精勤手当は時間外労働の対価以外のものが含まれているものとみるのが自然であり、(ア)時間外手当に従事し た従業員だけを対象として支給され、しかも、(イ)時間外労働の対価以外に合理的な支給 根拠(支給の趣旨・目的)を見いだすことができないとは言い難いものである。結局、仮にXY間でみなし残業合意が成立していたとしても、その合意は上記の各要件を満たさず、無効である。
 付加金については、特別の事情が認められない限り(本件ではその事情も存在しない)、認定された未払金(本件では182万円余)と同額の付加金が認められている。

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