1045号 「リーディング証券事件」
(東京地裁 平成25年1月31日 判決)
有期雇用契約における試用期間中の解雇が有効とされた事例
有期雇用契約における試用期間と解雇
解 説
〈事実の概要〉
本件は、Y証券会社(被告)に雇用期間1年間の約定で雇用されたXが、当初6ヵ月の試用期間中に解雇され、それを違法・無効であるとして、地位確認、残存期間の未払い賃金、違法な解約権行使によって被った損害賠償(慰謝料)等を求めていたものである。
Xは、出身地および国籍は韓国である。大学院で博士号(都市計画)を取得した後、平成20年10月、S投信会社に入社し、経済アナリストとして投資判断のためのリサーチ業務に従事していたが、平成23年1月11日、Yとの間で1年の期間のある雇用契約を締結し、証券アナリストとして課長職の肩書きでY社の本社のリサーチセンター室に配属された。月の給与は、45万8400円であった。なお、Yとの間で、本件雇用契約締結後、当初6ヵ月は試用期間とし、本件試用期間の途中において、あるいは終了に際して、Xの人柄・技能・勤務態度等について業務社員として不適格と認められた場合は本契約を解除する旨の合意があった。
Yは、本件試用期間の途中である平成23年3月29日、口頭でXを解雇する旨の意思表示を行った。解雇理由としてYは次の点を挙げている。Xに入社前にアナリストとしての能力を試験するためにレポートを書いてもらったが、1日(徹夜)で書き上げたとの話であったので、仕事が早い、日本語も合格レベルである、分析内容もまあ合格レベルであると判断して、韓国株のレポートを作る能力があると判断して採用したが、採用後のレポートを見ると、@スピードが遅い、A日本語のレベルが低い、B分析力・専門知識が日本の証券会社に勤めるアナリストと比べると低い等と評価されたことである。それ以外に、投資銀行本部長の指示に従わなかった、同部長に株式銘柄リストを作成するように指示されたにもかかわらず、反抗的な態度をとってその指示に従わず、その後も上司の指示に従わない態度を繰り返した。同僚の社員を名指しして、仕事ができないなどと述べた、ことも挙げられている(なお、Xの採用に際して課せられたレポートの作成に当たって、日本人である夫にその文章を見てもらっていたことを秘匿していたが、後にそれが明らかとなっている)。
本件で争点とされたのは、(1)本件留保解約権行使の有効性、と(2)本件留保解約権行使等の不法行為性と損害額である。
〈判決の要旨〉
裁判所は、結論として、(1)Yによる本件留保解約権行使は有効であり、その無効を前 提とする賃金請求権はXには存在しない、(2)本件留保解約権行使は不法行為には当たら ず、賠償請求は理由がないとしているが、まず、(1)に関連して、次のように判示してい る。有期労働契約においても、期間の定めのない労働契約と同様に、入社採用後の調査・観察によって当該労働者に従業員としての適格性が欠如していることが判明した場合に、期間満了を待たずにに当該労働契約を解約し、これを終了させる必要性があることは否定し難く、その意味で、本件雇用契約のような有期労働契約においても、試用期間の定め(=解約権の留保特約)をおくことに一定の合理性がある。しかし、その一方で、現在では、労契法17条1項が設けられ、労働契約には雇用保障的な意義が認められ、かつ、今日ではその強行法規性が確立していることにかんがみると、上記の試用期間の定めは、契約期間の強行法規的雇用保障性に抵触しない範囲で許容されるものというべきであると。
本件で、Xの日本語能力は、Yが期待したレベルには遠く及ばないものであり、また、Xの採用に際して課せられたレポートの作成に当たって、日本人である夫にその文章を見てもらっていたことを秘匿していたというのであり、これらの事実は、本件雇用契約締結時において知ることができず、また、知ることを期待できないような事実に当たり、XがYの従業員としての適格性に欠け、およそYの期待に応えることがおよそ不可能な従業員であることをうかがわせるに足りるものであるうえ、使用者との信頼関係を根本から喪失させるものである。したがって、本件の留保解約権行使は、解約権留保の趣旨、目的に照らして、客観的に相当である上(要件@)、雇用期間の満了を待つ事無く直ちに、雇用を終了させざるを得ないような特別の重大な事由も存在している(要件A)ので、適法であると。
本件は、有期雇用契約における試用期間中の留保解約権行使の当否が争われ、その行使が有効とされた注目すべき事例である。
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