1044号 労働判例 「乙山タクシー有限会社事件」
              (福岡地裁 平成25年9月19日 判決)
タクシー運転手の5分を超える駐停車時間を休憩時間とする取扱いが違法とされた事例
タクシー運転手の駐停車時間と休憩時間

 解 説
 〈事実の概要〉
 X(原告)は、旅客運送事業を行うY社(被告)に雇用され、平成19年1月ころから22年10月頃までタクシー運転手として勤務していたが、Y社の乗務員賃金協定書には、@1ヵ月の所定の水揚げ額が42万円未満の者に対しては、39%を賃金総額として保障する(基本11万840円+深夜残業手当)、A指定休憩時間外の待機客待時間は休憩とみなす、と規定され、Y社では、タコグラフ等で記録されたタクシー運転手の運行状況から、Y社の車庫以外での5分を超える駐停車時間を休憩時間として、実労働時間から控除する取扱いを行ってきた。
 これに対して、Xは、Y社の賃金支払い額は最低賃金法違反になると主張して、@平成21年4月から22年10月までの最低賃金法に定める賃金との差額、A14・6%の遅延損害金、B労基法114条に基づく未払い賃金額と同額の付加金等を求めて訴訟を提起した。なお、Y社の所定労働時間は、隔日勤務については、始業時間が午前7時、終業時間が午前3時で、所定労働時間15時間、休憩時間は3時間、隔日勤務以外はについては、所定労働時間8時間、休憩時間は1時間である。
 〈判決の要旨〉
 裁判所は、労基法32条にいう労働時間について、労働者が使用者の指揮命令下におかれて労務を提供する時間をいい、この労働時間に該当するか否かは、使用者の指揮命令下におかれているか否かにより客観的に定まる、と述べた上で、本件について次のように判示する。すなわち、「タクシーの客待ち時間は、客が来ればいつでもタクシーを運行させるのであるから、タクシー運転手に対して労働契約上の役務の提供が義務づけられており、客待ち時間を含む長時間の駐停車を一律に休憩時間と評価することはできない」と。
 その一方で、「タクシー運転手の休憩時間は、場所、時間帯や気候等の諸状況により乗客獲得見込みが異なるため、一定程度、タクシー運転手の判断に委ねざるを得ず、使用者において把握することが困難な特質があることに鑑みると、経営上の必要性から、使用者により事前に、客待ち時間の制限や客待ち場所の指定等の指導がされ、使用者の指導を超えた駐停車時間を、休憩時間と評価する就業規則を定めることも、一定の合理性があるといえる」としている。
 そして、使用者の指導を超えた駐停車時間を休憩時間と評価するには、@当該指導の内容が使用者の経営方針やタクシー営業の実態に鑑みて合理的であると認められること、およびA使用者から当該指導の内容について、職場の見える場所に掲示して周知する他、点呼等の際に、タコグラフ等によって把握できる各タクシー運転手の勤務状況に応じて、当該指定が遵守されていないタクシー運転手に対し、使用者の指導を遵守するよう個別に指導をする等、従業員であるタクシー運転手に対し、一般的な注意に止まらず、指導を超えた駐停車時間が休憩時間と評価されることが、実質的に周知されていると認められることが必要である」としている。
 判決は、Xの未払い賃金請求について理由があるとし、また、それと同額の付加金を認めている(最低賃金法違反については、付加金の対象になっていないことからすれば、Xの請求を、時間外・深夜割増賃金の請求と捉えたものであろう)。

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