1042号 労働判例 「行橋労働基準監督署長事件」
              (東京地裁 平成26年4月14日 判決)
歓送迎会後の任意の送迎中の運転事故死について、業務起因性が認められないとされた事例
歓送迎会後の任意の送迎中の運転事故と業務起因性

 解 説
 〈事実の概要〉

 本件は、株式会社甲から同社の100%子会社である株式会社甲九州(以下「本件会社」)に出向して同社の刈田工場等で勤務していた亡M(以下「被災者」)が、平成22年12月7日に交通事故(以下「本件事故」)で死亡したのは業務上の死亡であるとして被災者の妻である原告が、処分庁に対して、労災保険法に基づく遺族補償給付等を請求したが不支給決定(以下「本件処分)を受けたため、原告が本件処分の取消しを求めたものである。
 本件事故があった平成22年12月7日(以下「本件当日」)、午後6時30分から午後9時過ぎまでの間、ある居酒屋で本件会社の社員と中国人研修生との親睦を深めるための歓送迎会が開催されていた。被災者は、当日、F部長から出席を打診された際には、「資料を作成しなければならない」として参加を断っていたが、午後8時頃、会社の作業着を着たまま本件会社所有の乗用車を運転して本件居酒屋にやってきて、本件歓送迎会に参加し、午後9時過ぎころ、F部長が送る予定であった中国人研修生5名を乗せて(送っていくようにとの指示は受けていない)、本件居酒屋を出発した。本件当日午後9時15分ころ、被災者は、運転して走行中に、対向車線に進入し、大型貨物自動車と衝突し、頭部外傷により死亡した(「本件死亡」)。
 〈判決の要旨〉
 裁判所は、次のように判示している。本件会社において、中国人研修生の歓送迎会は定期的な行事として位置付けられ、その社員に参加を義務づけていたものと認めることはできないことに加えて、本件歓送迎会はは、本件の居酒屋においてアルコール飲料を提供して開催されたものであることを考慮すると、本件歓送迎会は親会社を同じくする乙から派遣された中国人研修生との親睦を深めることを目的として、本件会社の従業員有志によって開催された私的な会合であると認めるのが相当であり、本件歓送迎会の途中から参加した被災者が本件歓送迎会の運営に何らかの業務上の役割を担っていたとは認められないから、被災者の本件歓送迎会への参加には業務遂行性を認めることはできない、と。
 被災者に対して、中国人研修生5名を、本件車両に同乗させてかれらのアパートまで送迎する運転行為が指示されたことはなく、かえってF部長がかれらのアパートまで研修生を送ることが予定されていたというのであるから、私的な会合である本件歓送迎会後に付随する送迎のために被災者が任意に行った運転行為について、業務遂行性を認めることはできない。
 また、被災者は、中国人研修生5名をかれらのアパートまで送った後、資料を作成するために工場に戻る予定であったと推認することができるが、私的な会合である本件歓送迎会に出席するために、工場と本件居酒屋との間を往復する行為は、使用者の管理支配下にあるものとは認められないから、被災者が、本件歓送迎会の終了後に本件工場で業務を行うことを予定していたことを理由に、本件事故の際の被災者の本件車両運転行為に業務遂行性を認めることはできないとされている。
 本件で、F部長が酒に酔った等の理由で、中国人研修生5名をかれらのアパートまで送ることを被災者に強く指示したような場合にどのように判断すべきであるかについては、議論があろうが、本件の事実関係を前提とするかぎり、本件判旨の結論は妥当なものといえよう。

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