1022号 「ボッシュ事件」
(東京地裁 平成25年3月26日 判決)
執拗に内部通報メールを繰り返したこと等を理由とする解雇が有効とされた事例
内部通報と解雇
解 説
〈事実の概要〉
本件は、自動車整備機器、電動工具等の輸入販売を目的とするY社(被告)に雇用されて総合職として勤務していたX(原告)が、執勧に内部通報メールを繰り返したこと等を理由として解雇され、解雇される以前にYからなされた出勤停止処分の無効、解雇の無効による地位確認等を求めて訴えたものである。
Xは、平成19年6月頃、K社に対するパ一ツカタログを使用する部品の展開図(デジタルイラスト)の発注について、同社に購入済みの不要なデジタルイラストが大量に発注されていると考えるようになり、Y社内に設けられた内部通報室職員に対して通報した(本件デジタルイラスト問題)。Yの内部統制室では、内部通報の通り、目的が明確でない多額の発注が特定の業者から継続的に行われていることを確認したとして、対象部署に是正勧告を行った。しかし、Xは、是正勧告の内容が不十分であるとして、弁護士らに調査を依頼し、担当者2名とその上司を厳重注意処分とし、弁護士からXに調査報告書の内容を説明させたが、Xは、納得しなかった。その後も、Xは執勘に内部通報メ一ルを繰り返した。判旨で述べられているように、こうした理由でXは出勤停止処分に、次いで解雇されるに至った。
〈判決の要旨〉
裁判所は、まず、出勤停止処分について次のように判示する。Xは、平成23年7月22日の警告書により、本件デジタルイラスト問題について蒸し返すことのないように警告を受けるとともに、職務専念義務に従い就業時間中は業務外の文書、メ一ルの作成を禁じる業務命令を受けたにもかかわらず、E社長に対して本件デジタルイラスト問題について告発する内容のメ一ルを発信し、直接の面談を求め、それに同社長が応じないとみるや、同年8月5日には、上記問題を放置することは取締役の忠実義務違反になる、民事上の損害賠償責任や特別背任罪に該当するなどとの不穏当な言辞を用いたメールを送り付け、E社長が警告書に従った行動をとるように希望するとの返事をしたにもかかわらず、同月9日には、執拗に8点もの質問をしたメールを送信したもので、Yの就業規則の懲戒事由に該当する。
また、公益通報者保護法2条の「不正の目的」の解釈に関連して、次のように述べる。すなわち、本件のようにいったん是正勧告、関係者らに対する厳重注意という形で決着をみた通報内容について、長期間を経過した後に、専ら他の目的を実現するために再度通報するような場合に、これを「不正の目的」に出たものと認めることに何ら問題はないと。
本件のXの懲戒事由該当性は、いずれも意図的、確信犯的にYの業務命令を無視するものであって、業務に支障を及ぼす程度も少なくなく、メ一ルの内容も不当に個人を誹謗するもので、その態様は悪質であり、本件の5日間の出勤停止という懲戒処分が、客観的に合理的理由を欠き、社会的に相当性を欠くということはできないとした。
解雇については、次のように判断している。すなわち、Xは警告書による警告を受けながら、これに真っ向から反抗する態度を続け、出勤停止処分に伴う始末書の提出を拒んだだけではなく、出勤停止処分に基づく出勤停止期間中であるにもかかわらずXが出勤した日に関して賃金控除を行うという当然の措置を採ろうとしたGに対して、賃金控除は不当であるとして抵抗し、同人を罵り、かっ法的措置をとるなどと威圧的、恫喝的な発言を繰り返した。また、本件デジタルイラスト問題について再度、ドイツの親会社の関係者に告発を繰り返すなど、確信犯的に業務命令違反を繰り返し、これにより無用の混乱を招いたものであり、解雇には客観的に合理的理由があり、社会的に相当性があり、また公益通報者保護法3条にも反しないとした。
警告書による警告を受けながら、それを無視して執拗に内部通報メールを操り返したことが解雇の正当な理由として認められたケースとして注目される。
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