1017号 「立命館(未払一時金)事件」
       (京都地裁 平成24年3月29日 判決)
労使間で慣行として少なくとも年6カ月の一時金の支給が労働契約の内容となっていたとされた事例
一時金支給の慣行とその変更
  解 説
 〈事実の概要〉
 本件は、被告学校法人Yの教職員である(またはであった)原告Xら204人が、Yは従前、一時金(賞与)として給与月額の6・1カ月分および10万円(以下、「年6・1カ月分+10万円」というように表記し、これを「本件基準額」という)を支給していたところ、平成17年度から19年度の一時金を「年5・1カ月分+10万円」(これを「本件一時金額」という)で支給したことについて、YとXらとの間において、一時金を「年6・1カ月分+10万円」とすることが具体的請求権として労働契約の内容になっており、本件一時金額とする不利益変更は無効である等として本件基準額と支払われた本件一時金額との差額等の支払いを求めた事案である。
 Yにおいては、昭和57年度から平成16年度まで、Yの教職員で組織される複数の組合からなる教職員組合連合の春闘要求に対する回答として、Yが具体的な支給基準を回答し、その基準に関してYと教職員組合連合の代表者によって構成される業務協議会で協議を行い、教職員組合連合の理解を得た後、年間一時金の支給基準について労働協約が締結されてきた。そしてYは、従前、年間一時金として本件基準額を支給してきたが、平成17年5月、教職員組合連合に対して本件一時金額とする旨の回答を行った。17年度から19年度についても、同様に本件一時金額の回答を行った。
 〈判決の要旨〉
 判旨は多岐にわたるが、まず、Xらの、本件基準額が労働協約によって継続して支給されてきたことからそれが労働契約の内容になっていたとの主張については、次のように判示している。すなわち、昭和57年度から平成16年度までは一時金について毎年、労使間で協約を締結していたものであり、理事長もそれに拘束されるが(労組法16条)、労働協約が締結されていない平成17年度以降については、Yの理事長が一時金をその裁量によって定めることを規定した本件給与規程29条によって理事長が一時金をその裁量によって定めることができるのであり、本件基準額が労働契約の内容になっていたとは言えないとしてXらの主張を退けている。
 次いで、労使慣行について、それが@同種の行為・事実が長期間反復継続して行われてきたこと、A労使双方が明示的に当該慣行によることを排除・排斥せず、労使双方の規範意識に支えられている場合、事実たる慣習として労働契約の内容を構成して当事者間に法的拘束力を有するとした上で、一時金の支給基準について、Y(理事長)が将来にわたって本件基準額とすることを容認していたわけではない種々の事実を指摘して、一時金の支給基準を本件基準額とする旨の労使慣行が成立していたとは言えないとしている。もっとも、Y(理事長)としても、経営状況が悪化する等人件費抑制の必要性が高くなる等特段の事情のない限り、6カ月を下回る一時金の支給を考えていたわけではなかったとして、上記特段の事情のない本件では、X・Y間に少なくとも年6カ月の一時金を支給することが労働契約の内容となっていたものと認めている。
 さらに、こうした労使慣行の変更が許される場合について、その必要性および内容の両面からみて、労働者が被ることになる不利益の程度を考慮しても、なお当該変更の法的規範性を是認できるだけの合理性を有する必要があり、特に賃金、退職金等労働者にとって重要な権利、労働条件に関して実質的なる不利益を及ぼす労使慣行の変更については、それを許容することができるだけの高度の必要性に基づいた合理性を有する必要があるとして、第四銀行事件・最2小判平成9・2・28(民集51巻2号705頁)が挙げた諸要素(これは、後に就業規則の不利益変更に関する法理として労働契約法10条に取り入れられたものである)を列挙している。いったん成立したと認められた労使慣行についてそれを変更する場合も、その内容如何によっては就業規則の不利益変更とほぼ同様の高いハードルが課せられるということである。

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